高額療養費制度のシミュレーションとは?
2025年の8月から高額療養費制度の上限が引き上げられます。そして、2027年8月以降の段階では、年収区分を13段階に分けて上限額が引き上げられるとされており、2025年2月の段階でも、調整が続いています。
がんや難病で闘病されている人は長期的に高額な治療が必要となっており、高額療養費制度の上限が引き上げられることによって治療を受けられない人が出てくるという話もあります。しかし、その点は多数回該当の場合に抑制するという形をとる可能性もあり、未だ「高額療養費制度改悪」の方向性は変わっていません。
今まで入院をしたことがない人にとっては、「万一のときの負担がふえるのだろうな」程度のことかもしれません。しかしながら、40代後半から50代ともなると、この問題は大きな影響を与える可能性があるのです。
そこで、3つのキャラクターにおいてどの程度負担がふえるのかをみていきたいと思います。
シミュレーションのモデル

そこで3つのモデルでシミュレーションをしてみましょう。
● Aさん.新入社員の女性25歳 年収353万円
● Bさん.入社10年目中堅社員の男性 年収556万円
● Cさん.入社30年目のベテラン社員の男性 年収712万円
年収は国税庁の「令和5年分民間給与実態統計調査」をもとに考えます。

若い人で高所得の人もいますが、一般的な会社員であれば未だ年功序列的に給与が上がっている会社も多いことがこのデータからもわかります。
どんな治療を想定するか?

高額療養費制度は、治療費が高額になったときのセーフティネットです。例えば、がんや難病のような完治しない病気では大きな治療費がかかるため、高額療養費制度のお世話になるケースが多いと言えるでしょう。
そこで、生涯で2人に1人は罹患するとされているがんでみていきます。がんの罹患者数は部位ごとにことなりますが、男女ともにもっとも罹患者数が多いのは大腸がんであり、そのひとつが結腸がんです。
結腸がんの治療費は1入院あたり平均で141万4,713円かかると試算されています。これは、公益社団法人全日本病院協会の「医療費」重症度別による平均額です。
がんの入院日数は10日前後とよく言われますが、現在は❶がんと診断確定される期間、❷外科的な手術が可能であればその期間、そして❸全身に散らばったがんを叩く抗がん剤治療の期間に分かれます。このような治療を行った場合、1か月で収束することはまずなく、通院を含めた継続的な治療をしていくことになります。
これは放射線治療であっても同じことではないでしょうか。
そこで、141万4,713万円の治療が3か月間で行われたと仮定すると、1か月あたりの治療費は47万1,571円かかっていたことになります。この金額に高額療養費制度がどのように機能しているのかを2025年7月末までの上限額と、2027年8月以降の上限額で比較していきます。
治療費はどの所得層のモデルでも上がる

ご覧のように3か月でかかる治療費は、どの所得層でも上がることが分かります。特にBさんとCさんは、2025年7月末までは同じ負担であったにもかかわらず、2027年8月以降になると、9万6,600円の負担増と16万9,500円の負担増という大きな差につながります。
高額療養費制度は「高所得者の負担割合を増やす」という側面が強調されますが、終身雇用や年功序列の中で生き残ってきた40代後半から50代の所得層を狙い撃つ形になります。そして一番こわいのは、この世代こそ、がんや三大疾病に罹患しやすい年代だということです。
